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胸壁外科コラム

<Vol.16>統計

2018年の私たちの漏斗胸鳩胸の手術にについて報告します。5-48歳、平均16.3歳の59人の方に手術を行いました。漏斗胸54人、鳩胸は5人、男性46人、女性13人でした。問題となる合併症はなく、5-7日、平均5.8日で退院されました。退院時に痛みどめを必要とした方は、17-35歳の8人だけでした。この方たちも退院後は痛い時だけ頓服として内服することによって痛みが改善していました。12歳以下の20人はさらに短い5.3日で退院し、退院時には痛み止めを要するような痛みはありませんでした。私たちの手術では異物を体内に残さず1回の手術で完結します。合併症がきわめて少なく、痛みが続かないのが特徴です。左右差が強い方や鳩胸の方にも十分な矯正が得られ、Nuss法が難しいとされる、12歳以下の小児にも無理なく行うことが可能です。

厚生労働省の統計に不備があることが最近報道されました。データをまとめる方法に誤りがあったり、自分たちに都合が悪い事柄をフェイクニュースとして無視したりすることはあってはなりません。

すべての方に胸の形や体型に違いがあるように、胸郭変形の方にも胸の形や軟骨の硬さ、体格などに個人差があります。それに合わせて合併症を防ぎながら胸の形を整える漏斗胸鳩胸の手術には経験が大切です。そして多くの手術をするだけではなく、それを振り返り改善に努めることが必要だと思っています。そのためには手術の結果を統計学的に正しいデータとしてまとめることが必要です。

これから手術を受けることを考えている方は、主治医に手術の経験、その結果、感染や長期入院、再手術などの合併症の頻度、患者さんの満足度、痛みが続く期間、対象となる年齢とその根拠など疑問をぶつけてみてください。一生に1回の手術です。信頼できる医師を見つけてください。

<Vol.15>医学と科学

胸部外科(心臓血管外科と呼吸器外科)の分野でもっとも権威がある医学雑誌であるJournal of Thoracic and Cardiovascular Surgery 誌に胸肋挙上術の論文を投稿していくつかの指摘を受けました。

まず手術後の長期的な結果はどうかと言う点です。胸肋挙上術では軟骨の治癒が完了して、皮膚の肥厚性瘢痕の危険がなくなれば受診していただく必要がなくなるので通常は手術後1年で定期的な診察を終了します。その後は異常があった際に受診していただいたり、メールでご連絡いただいたりしています。長期に渡って学校や勤務を休んで受診していいただく必要がないことも胸肋挙上術の利点です。しかし医学研究論文としては数年後まで診察を続けて評価する必要があります。

胸郭変形疾患は患者さんによって胸郭の形だけでなく体形や軟骨の弾力などが異なるので手術の技術的なことは数字では十分に表現できません。しかし科学の世界では客観性や再現性を持たせるために数字で示さなければなりません。アートではなくサイエンスなのです。この様に実際の診察や手術と科学の間には差がありますが、私たちはこの差を埋めて、胸肋挙上術の優位性を科学的に証明したいと思っています。 今年の日本小児外科学会では思春期前にナス法を行っている先生の発表がありました。ナス先生をはじめ欧米のほとんどの医師は思春期前にはNuss法の手術は行わない方が良いと言っています。この時期に手術をすると成長によって金属バーが体に合わなくなったりずれたりすることや、バーを抜いた後の成長によって再陥凹する危険があるからです。千人を超える患者さんに手術を行っている欧米の多くの医師の意見に反して手術を行うには、画期的な手術方法の工夫が必要なはずです。発表された先生にそのことについて尋ねてみましたが、明確なお答えはいただけず、患者さんが希望するから、とのお返事でした。患者さんの希望に答えるのは大切なことですが、その前提は医学的に同等の効果が証明された選択肢がある場合です。国内には小児の漏斗胸手術に独自の工夫をされている先生もいらっしゃいますが思春期前のNuss法は欧米ではほぼ否定されています。

私たちの胸肋挙上術変法は独自の方法です。独善的にならない様に、可能な限り科学的な検証を行いながら術式をさらに良いものにする努力を続けていきます。

<Vol.14>災害

今回は胸壁外科とは関連がない話題です。今年は地震や台風、豪雨などの災害が多く、被害を受けられた方々にはお見舞いを申し上げます。

台風24号では関東も強い風が吹いて、神奈川県の海沿いの地域では停電や塩害を受けました。海沿いでは木の葉が茶色く変色し、窓ガラスなどには塩がついて白くべたべたしています。私たちも災害への対策を強化すべく対策を考え直しています。

先日鹿児島県奄美群島にある喜界島の喜界徳洲会病院に出張いたしました。台風24号では、お年寄りも初めて経験したという強風が吹いて、屋根や壁が飛ばされた家がたくさんありました。(関連する記事はこちら)幸い大きな怪我をした方はいなかったようですが、数日停電が続いた地区もあって生活への影響は大きかったようです。連続して台風が近づいたために、フェリーでの物資輸送が滞り、生鮮食料品の売り場は売り切れが目立っていました。

昨年9月には島始まって以来の大雨でがけ崩れが多発し被害を受けた家や農地がたくさんありましたが、今年もまた、想定を超えた災害だったようです。

過疎の島でお年寄りの一人暮らしも多いのですが、近所の結びつきが強く、力を合わせて復旧を頑張っていました。

今年の大河ドラマでは奄美方言の台詞に字幕が付いて話題になりました。島津藩時代や第二次大戦とその後の占領など辛い歴史がある島々ですが、奄美諸島には自然が残り、人々が温かく、初めて訪れても懐かしく感じるような場所です。サンゴ礁の海はとても綺麗です。大きな川がないので泥が流れ込まないからです。浜には外国語の表記がある大量のペットボトルや漁具が漂着するので、地元のボランティアなどが清掃をしています。

最近は成田と関空からLCCも飛んでいます。観光に訪れたり、黒糖焼酎を試してみたり、ふるさと納税をしたり、「応援をよろしくお願いします!」

<Vol.13>ネット情報

私たちはインターネットの医療情報には不正確なものもあり注意が必要である事をかねてから指摘してきましたが(「よくある質問と答え」参照)、今月から医療法施行規則が改正されて、医療に関する紛らわしい広告が禁止されました。(詳細はこちら)私たちが問題視していた「患者様の感想」などを公開することも禁止されました。

法律改正に先立って昨年暮れにグーグルの医療情報検索のポリシーが改定されました。(関連する記事はこちら)正確な医療情報を掲載したサイトが検索上位に来るようにすることが目的とのことです。この変更ののち、私たちのこのサイトを閲覧いただく回数が飛躍的に増加しました。2017年までは1か月に閲覧いただいた回数は最高1700回ほどでしたが、2018年5月には3600回と倍以上に増加いたしました。たくさんの方に読んでいただく責任を果たすべく、医学的に証明された、正確で最新の情報であるエビデンス(コラムvol.5参照)を発信する努力を今後も続けていきます。

<Vol.12>第98回米国胸部外科学(American Association for Thoracic Surgery, AATS)について(その2)

AATSには飯田が責任者として漏斗胸の手術を行うようになってから昨年夏までの24年間の400件以上の手術について「Twenty Four Years Experience of Open Surgical Repair for Pectus Excavatum」という題で下記の内容の発表をしました。

それ以前の手術方法である、ラヴィッチ法や胸骨翻転術、胸肋挙上術原法などをもとにして胸肋挙上術変法(SCE)を開発しました。

1998年にNuss先生が全く新しい発想の手術を発表してその術式が一気に広がった時には、Nuss法の合併症が比較的多いことに気が付き、SCEにさらに改良を重ね、現在はSCE変法3,4,5を患者さんの年齢や胸の形に合わせて行っています。異物を用いないので、それがずれたり、成長に伴って体に合わなくなったり、感染したり、痛みが長く続いたりすることがない事が利点です。Nuss法では10%程度にみられる重篤な合併症がSCEでは起きたことがありません。また長期間痛みが続くことや、長期の運動制限もありません。Nuss先生など欧米の先生は思春期前の患者さんには手術を行わない様になりましたが、SCEは5-6歳の患者さんから行う事ができます。手術後の成長に伴う変化は完全には否定できませんが、5-6歳ごろに胸の形が気になりだした患者さんを中学入学頃まで長期間待たせることは良い事とは思えません。またSCEは突出を伴った変形や左右非対称の胸郭も良好に矯正する事ができます。SCEは合併症がとても少なく、患者さんにご満足いただける手術方法であり、患者さんが手術を受ける際にNuss法と対比して選択する手術方法となりうるのではないかと考えています。

発表後の質問は以下のようでした。


Q1: 胸骨下部をとることで問題は起きないか

Q2: 肋軟骨が無くなる程度の切除をしなければ矯正はできないのでは

Q3: 手術後長期の結果について

A1: 胸骨下部は陥凹の最深点であることが多くその切除によって心への圧迫が解除される。また下部肋軟骨の再縫合が容易になり十分な張力が胸骨を引くようになり、その反作用で胸壁も引かれ、より良い矯正が得られる。腹直筋などを修復するので問題は生じない。

A2: 肋骨肋軟骨の間を剥離しないので1本ずつの肋骨ではなく、胸壁全体が胸骨を左右と下方(尾側)に引く強力な力が生ずる。そのため肋軟骨の切除はラヴィッチ法や胸肋挙上術原法などと比べて少なく十分な長さの肋軟骨を残しても矯正が得られる。

A3: 長期間異物を体内の残すようなことはしないので、再縫合した肋軟骨が癒合して治癒が終了すれば定期的な診察や検査は不要である。そのため1年目以降は学校や勤めを休んで外来に来てもらうことはしないが、何年経っても異常があればメールでの相談を受けている。

<Vol.11>第98回米国胸部外科学(American Association for Thoracic Surgery, AATS)について(その1)

第98回米国胸部外科学(American Association for Thoracic Surgery, AATS) に胸肋挙上術の演題を発表しました。

この学会は1917年に設立された心臓外科、呼吸器外科では世界で最も歴史がある大きな学会で世界中に会員がいます。

日本の学会では10室以上に分かれて、多くの演題が発表されるのが通常ですが、AATSでは、最大でも心臓、大動脈、呼吸器、小児心臓の4会場に分かれるだけで厳選された演題を討論します。

発表時間が8分と長いだけでなく、その後の質疑が10分と発表より長く、興味ある質問が続くうちは予定を超過しても討論時間を延長することがあるのも日本の学会との大きな違いです。

この様な会に選ばれたことは大変名誉であるとともに、とても緊張して臨みました。

全体会が行われる部屋では1700脚ほどの椅子がありましたが、立ち見が出る事もありました。

留学中の恩師の米国のChitwood教授, ドイツのSchafers教授や教科書や論文で著名な先生方の講演を拝聴しました。

現在の心臓外科手術で最も数が多い冠状動脈バイパス手術を米国で初めて行ったGreen先生が登壇したレジェンドランチョンでは、心臓外科黎明期のご苦労を興味深く伺いました。

会場のカリフォルニア州サンジエゴのコンベンションセンターはとても広く、西には湾とヨットハーバー、東は中心街に面していました。湾には海軍基地があり、現役空母が2隻、博物館になった退役空母が1隻停泊していました。

旧市街中心部にはレストランなどが並ぶ地区がありましたが、食事は一品の量がとても多く、円安のためか物価が高く感じました。メキシコと国境を接し、街じゅうにヤシの木がありますが、5月に入っても最高気温が15度程と思ったよりも寒い日が続きました。町の周囲は砂漠のような乾燥地帯ですが、雨も降り、想像していたのとはかなり異なる気候でした。

発表内容は次回に報告します。

<Vol.10>閲覧回数

胸壁外科のこのホームページを見ていただいた回数が2018年1月は月間1,800回を超えて過去最高になりました。ご覧いただきありがとうございます。

私たちはおそらく国内唯一の胸壁外科を標榜する診療を行うにあたり、漏斗胸の方の症状や、心臓や呼吸の機能に関する研究、私たちが行っていない手術方法も十分に理解して、ご説明や診療ができるように努めています。他の手術法を研究することによって自分たちの手術を改良させることもあります。ホームページの記述に当たっては思い込みや個人の感想のような事柄を極力排除して、理論的に公平に判断、吟味した最新の「エビデンス」(コラム5参照)を公表しています。

たとえば1998年にNuss先生が画期的な漏斗胸手術として金属棒を胸骨の裏側に留置する手術を発表した論文の患者さんの平均年齢は10歳以下でした。しかし、5年以上前からNuss 先生は「12-15歳くらいまで待ってから手術をする。18歳以上は合併症が増える」とおっしゃっています(Ann Cardiothorac Surg 2016;5:493)。このように経験を積むことによって、効果が高く合併症が少ないより良い治療法を再考することは尊敬すべきことです。Nuss先生が開発した手術が普及して、漏斗胸の手術が広く行われるようになり、漏斗胸が改善した方がたくさんいます。しかしNuss先生の当初の論文だけを参考にして、工夫もなく10歳以下の患者さんに対してNuss法を行ったり、Nuss法の問題の一つである疼痛が遷延することを説明しない医師もいるようです。私たちの胸肋挙上術変法を過去の術式と混同して批判する医師もいます。胸郭変形疾患に関して十分な診察や治療の経験を有し、常に論文や学会を通して最新の情報を得ている医師は多くはないと思われます。

患者さんやご家族に広くご説明するためにインターネットは大切な手段です。医師に対して胸肋挙上術を周知し議論するために学界や論文は重要な場所です。今後も胸肋挙上術をさらに進化させてその成果を発表していく努力を続けたいと思います。

米国で開催される呼吸器外科、心臓外科の分野で世界で最も権威のある学会であるAmerican Association for Thoracic Surgeryに胸肋挙上術の演題が採用されました。

<Vol.09>Nuss法漏斗胸手術手技研究会について

この研究会はNuss法手術の普及を目指して発足した会であり、私はNuss法を行っていないので参加したことはありませんでした。漏斗胸手術は胸部外科、小児外科、形成外科などで診察と手術を行っているために国内では一堂に会して漏斗胸を論じる機会がありませんでした。会の代表世話人の植村貞繁教授の広く漏斗胸について論じる会にしたいとの御意向からお誘いをいただき参加することにいたしました。

国内では漏斗胸手術をたくさん行っている施設が少なく、CWIG(コラム6参照)のように1000人を超える患者さんの手術結果を統計学的に検討した発表はありませんでしたが、胸郭変形の患者さんのより良い治療法を見出すために白熱した議論が行われました。

胸肋挙上術は、左右非対称、思春期以前、成人、陥凹と突出の両方を有する複雑な変形、鳩胸など様々な患者さんの胸郭に対応することが可能で、大きな合併症が起きていないことを400人以上の患者さんの手術結果から発表いたしました。また胸肋挙上術変法は、ラビッチ法、胸骨翻転術、胸肋挙上術原法などの過去の術式とは手術方法もその対象となる患者さんや結果も大きく異なることを説明しました。Nuss法以外の手術方法は胸肋挙上術だけであり、発表後も多くの先生方からご質問を受けました。

Nuss法は原法では前胸部に傷がなく、Nuss先生が推奨する年齢の患者さんに対して十分な経験を有する医師が行えば良好な形態が得られる画期的な方法です。しかし左右非対称の胸郭の矯正、Nuss先生が推奨する13-17歳以外の年齢に対する手術、早期に運動を開始したい方への手術などでは胸肋挙上術は有効であると考えます。Nuss法では合併症が比較的多いこと、呼吸や体動で動く胸郭をバーで長期間固定すること、疼痛が遷延することなどが問題点として考えられますが、それについて詳細に検討した発表はありませんでした。

私たちはNuss法を行わないのですがこの研究会の世話人にご推挙いただきました。今後も手術手技を改良し、より良い結果が得られるようにお互いの手術の経験を生かし欠点を補えるようしていきたいと思います。

<Vol.08>日本胸部外科学会総会発表について

心臓外科、呼吸器外科などの分野では最も大切な会です。この学会の重要な企画であるサージカルテクニックセッションというビデオを使って手術法などを発表するプログラムに胸肋挙上術の演題が選ばれました。広い部屋で立ち見が出るほど呼吸器外科医が集まった中で動画を使って手術の方法や昨年末まで約400人の手術の結果や、Nuss法では難しいと思われる左右非対称、小児、高齢、心臓手術同時などの患者さんに対する手術結果などを発表いたしました。興味を持ってくださる医師も多かったのですが、年配の医師の中には過去に自分たちが行っていたけれど今は行われなくなったラビッチ法、胸骨翻転術、胸肋挙上術原法などと混同して批判する先生方がいらっしゃいました。私たちが行っている胸肋挙上術変法はこのような過去の術式の反省の上に改良を重ねた手術の方法です。過去の術式やNuss法を研究してより良い結果を求めて工夫を重ねているから患者さんに喜んでいただけるようになったと考えています。消えたしまった過去の術式とは異なる方法です。今後も丁寧にその違いを説明していきます。

<Vol.07>Chest Wall International Group (CWIG 国際胸壁研究会その2)

Nuss法に関して多くの発表がありました。胸郭の形には個人差が大きく、それを矯正するにはどのような術式でも十分な経験を要します。様々な胸郭変形に対して手術方法の工夫がなされています。バーを交差させたりして3本以上留置する方法が発表されましたが、多くのバーを置いた場合に、胸郭の動きを長期間、広範囲に阻害することにならないのかが気になりました。私たちの胸肋挙上術では肋間筋による胸郭の動きを阻害しません。また肋軟骨が引き合うことで作用反作用の法則が生じて左右非対称や陥凹と突出を併せ持った胸郭に対してもよく矯正することができます。

Nuss法では肋骨の間に金属棒を挟むことになるので疼痛が遷延します。疼痛を軽減する方法について討論するセッションもあり、海外では未成年に対しても長期間麻薬を使用しているとの報告がありました。

手術数が多い施設を調べると、頻度は高くはありませんが発表されている以外にも重大な合併症が起きているとの報告もありました。インターネットで公開されている重篤な合併症もあります。(http://www.dailymail.co.uk/health/article-2773333/She-just-wanted-bra-like-friends-paid-life-Teenager-17-dies-surgery-correct-sunken-chest.html)

手術方法以外に看護に関する演題、心機能に関する演題なども発表されました。胸壁によって圧迫されるために運動時に心臓の右側が拡張できないことが漏斗胸の方の運動時の身体症状の原因となっている可能性が示されました。

日本から参加したのは3施設と少なかったので休憩時間などに交流する事ができました。他国からの医師ともお話をする機会があり、歌で聞いたことがある、カナリア諸島から参加した医師からは、島はスペイン領だけどアフリカ西岸にある事をうかがいました。

3日間胸郭変形に関して論じるこの学会は、自分たちが行っていない手術や、生理学や看護など他分野の研究を学ぶことができて、胸郭変形疾患とその手術に関しての理解が深まり実り多いものでした。

帰国は飛行機の遅れで乗り継ぎが出来ず、中国経由で12時間以上遅れてかなり疲れましたが、同行の友人ができたのも旅の楽しみでした。

<Vol.06>Chest Wall International Group (CWIG 国際胸壁研究会その1)

胸壁の疾患についての、おそらく唯一最大の国際的な研究会であるCWIGの第18回総会に参加しました。

200人以上の参加者が100題近い演題について発表、討論しました。論文でお名前を拝見するような世界中の漏斗胸専門家のほとんどが集まっていました。日本から参加した医師は私を含めて3人でした。3日間ずっと胸郭変形疾患についての話題が続き、大変勉強になりました。学会名誉会長の米国のNuss先生はご高齢にもかかわらず最前列で討論に参加していらっしゃいました。会場はイタリア、フィレンツェのヨーロッパ最古の孤児院で、現在は博物館になっている建物でした。6月のイタリアはとても暑く、エアコンがない室内は討論の熱気もあり午後には汗がとまりませんでした。

Nuss法以外の漏斗胸手術の演題を発表したのは私だけでした。二次性徴まで待ってから施行することが推奨されているNuss法に対して、私たちの胸肋挙上術は3歳から中年に至る広い年齢に対して有効な手術法であることを発表しました。最前列のNuss先生が、二次性徴前に肋軟骨を切除することの是非について質問されました。以前広く行われていたRavitch法では切除した肋軟骨を再建しないことがあるので肋軟骨の成長異常を起こすことがあります。しかし胸肋挙上術では肋軟骨の一部を切除しますが各肋軟骨の一部を残して再建します。そのため手術後に肋軟骨や胸郭が成長できなかったことはないとお答えしました。その後で廊下でご質問に対してお礼を言うと「Nice presentation!」と言っていただきました。以前同学会でお話ししたことがある、CWIG前会長のデンマークのPilegaard先生に私の発表に対する感想を伺うと、ご自身が約2000人に行っているNuss 法のほうがいいのではないか。手術時間が3時間近くかかるのは長すぎる、とのご意見をいただきました。Nuss法では治療が終わるまでに3年かかるので、1回の手術で完結する胸肋挙上術ほうがずっと短いと考えているとお答えしました。

胸郭変形疾患の様に専門とする医師が少ない疾患では、一般の学会での発表は限られているので、このような研究会に参加し、最先端から遅れないことの重要性を再認識しました。Nuss先生を含めて海外の施設では、12歳未満の小児に対してはNuss手術を行わなくなりました。この年齢では合併症や再発が多いからです。また18歳以上では合併症が増えることをナス先生は述べておられます。このことを考慮せず工夫もなくNuss法を行っている施設も残念ながらあります。Nuss法以外のほぼ唯一の漏斗胸手術の選択肢である胸肋挙上術をさらに進化発展させていく使命を感じました。

<Vol.05>学会発表とエビデンス

学会ではまれな病気の患者さんを診察、治療したという1例報告から、治療方法に工夫をしたり新しい治療や手術法を開発した報告、過去の治療結果をまとめた報告、複数の病院での結果を合わせて検討した報告、動物実験のような将来の治療つながる基礎研究など様々な分野の演題が発表されます。

学会に発表するには通常は審査があり、抄録(発表のあらすじ)を応募して一定の基準を満たした演題が発表されます。応募したほぼすべての演題が採用される学会もありますが、厳しく審査され、採択率を公表している学会もあります。私たちの分野の国内の学会では、胸部外科学会、外科学会の総会などは厳しく審査されます。発表の多くはパワーポイントを使用しますが、ビデオ、ポスターなどを使用することもあります。興味深いテーマについて議論する、パネルディスカッションやワークショップなどは上級演題と言われ、他の医師に対する教育や啓蒙の意味が強くなります。

ある方法の効果を証明するには、都合の良いデータや患者さんを選ぶのではなく、同じ方法を試みたすべてのデータに対して、統計学的、医学的な検証をしなければなりません。(個人の感想です)と小さな字で書いてある健康食品の広告などとは異なります。自分の主張に都合がよいデータや論文、記事だけを引用する某国元首のようなことは避けなければなりません。

新しい治療法を試みる場合には、院内の倫理委員会で審査をして、患者さんに十分にご説明をしてご納得いただくなどの、倫理的な指針に基づいていることが必要です。動物実験にも倫理的な基準があります。また発表に際して企業との関係の有無を明らかにする必要があります。

このようにして得られた結果に基づいて論文が書かれ、医学雑誌に投稿され、審査を経て掲載されます。権威のある英文医学雑誌に掲載されるのは、投稿された論文の半数に満たないすぐれた論文です。医学雑誌の信頼度、重要度は、他の論文に引用された回数を表すインパクトファクターという国際的な指標で評価されることがあります。

「ずっとこの方法でうまくいっているのだからこれで良い」というような医師の経験に基づいた医療が行われていた時代もありましたが、現在では信頼できる雑誌に掲載された論文(エビデンス)や、それらをもとに各学会が作成したガイドラインに沿って医療が行われます。これはEBM (evidence based medicine)、根拠に基づく医療と呼ばれます。

ちなみに私たちが行っている漏斗胸に対する胸肋挙上術(Sterno-Costal Elevation)に関する論文は、胸部外科の分野ではインパクトファクターが高いAnnals of Thoracic Surgery(米国胸部外科学会の機関誌)、European Journal of Cardio-Thoracic Surgery(欧州心臓胸部外科学会の機関誌) などに掲載されています。

<Vol.04>胸壁外科コラムについて

各月の月初には新しいコラムを掲載いたします。また、必要に応じて月の途中でも更新いたします。

<Vol.03>第54回日本小児外科学会学術集会報告(その2)

今回は他施設からの発表のご報告です。

Nuss法に関して、手術方法の工夫や留置する金属の材質を変える試みについて発表されました。また8歳未満で手術を行い10歳未満でバーを抜いた症例では、再発率が高いことが発表されました。手術経験が豊富な病院では、手術結果の改善につなげるために、手術方法の工夫や、過去の手術の検討が行われてその内容を他と共有するために活発に学会で発表をします。

バキュームベル(注)をいち早く導入した病院からの発表では、41人の患者さんで1年以上たった時点で体表面から陥凹の程度を測定し、年齢によっては改善していることが報告されました。しかしこの治療法を何人の患者さんに行ったが明らかではありませんでした。何人に行って何人に効果があったが医学的な結果の検証に大切であると考えて、私がそのことを質問すると、100人以上に行ったとのことでした。

他の施設からは、バキュームベルの施行前後でCTを撮影すると、胸骨の陥凹は変わらず、皮膚と胸骨の間の皮下組織が厚くなって体表面からは陥凹が改善したように見えるとの発表がありました。

注 バキュームベル:前胸壁に大きなカップのような器具を当ててその中を陰圧にして陥凹を吸い上げて治そうというヨーロッパで開発された器具。健康保険は適応されず自費(12万円程度)で購入して使用します。

<Vol.02>第54回日本小児外科学会学術集会報告(その1)

小児に対する外科治療を行う医師の学会です。漏斗胸や鳩胸などの胸郭変形疾患は小児期に明らかになることが多く、小児外科学会では活発に討論されます。

今回はテーマを決めて討論する「要望演題」に「漏斗胸の治療戦略」が指定され、8題が選ばれて発表、討論されました。

私たちは演題「10歳以下の小児に対する漏斗胸手術の検討」を発表しました。この発表の背景にあるのは、Nuss先生が2016年の論文でもNuss法(本編参照)による漏斗胸手術は12-15歳ごろまで待ってから行う、と述べていることです。それ以下の年齢では、成長によってバーが体に合わなくなったり、バーを抜いた後の再発が多いためです。また18歳以上のナス法は合併症が増えることも同時に述べられています。海外では1000人以上に対してNuss法手術を行った経験がある病院がいくつかありますが、その多くは思春期まで待ってから手術するとの報告をしています。私たちの胸肋挙上術は、1993年以降10歳以下の方149人に対して行われました。問題となるような合併症や陥凹の再発、成長への悪影響はなく、ご満足をいただける結果を得ていることを発表しました。手術後は平均5.9日で退院し、退院後に痛みどめを要するような痛みがあった方はなく、3か月以内にすべての患者さんですべての運動が可能になりました。Nuss法と異なり異物を留置することがないので、長期の運動制限や再手術して取り出す心配はありません。変形を気にしながらNuss法が適応される年齢まで待つのは患者さんにとって良い事ではないと考えています。肋軟骨の一部を切除することによって胸が小さくなるのではないかとのご質問いただきましたが、成人も含めた200人以上で、胸肋挙上術前後のCTを計測して、胸の内腔は小さくならないことがわかっていることをお答えしました。

次回は他の先生方の発表について報告いたします。

<Vol.1>胸壁外科コラムを開設しました。

胸壁外科に関する最新の情報をお伝えするためにこの欄をつくりました。

私たちのホームページは月間に日本語900-1500回、英語100-220回、中国語10回程度の閲覧をしていただいています。同業の医師からも参考になったとの感想をいただくことがあます。最近は類似のサイトも増えました。医学的情報を複数の医師がそれぞれの言葉でかみ砕いてお伝えすることは、ご理解いただくためにとてもよいことだと思います。これからも、医学的に正しく証明された情報をお伝えしようと考えています。私たち医師は常に最良の治療を目指しています。本編ではご紹介できないような、最近の学会で発表された演題や質疑の様子などを中心として胸壁外科に関する最新の情報を本欄でご紹介いたします。

6月28日現在では、今年の夏休みの診察、手術予定に少し空きがあります。診察、手術をご希望の方は代表電話から、胸壁外科受付を呼び出して、受診の予約をしてからいらしてください。診察日を増やして対応しておりますが、混雑が予想されますので、待ち時間が長くなる可能性をご了承ください。

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