代表番号

0467-46-1717電話

救急は24時間365日受付

手術について

手術の方法について

漏斗胸に対する手術は様々な方法が行われています。私たちは、前方の肋骨、肋軟骨が長く急峻な角度で下方に向かうという漏斗胸の方の特徴に対して、肋軟骨の一部を切除して断端を再縫合する胸肋挙上術変法をすべての患者さんに対して行っています。これは和田()らが小学生以下に対して行っていた術式を独自に改良した方法です。この手術では、呼吸のために必要な胸の動きを妨げるような金属など異物による固定を行わず、肋骨の弾力によって胸郭を矯正、固定します。

  • 故和田壽郎氏 札幌医科大学名誉教授 元東京女子医科大学教授 著書「胸郭変形」(文光堂)などに術式の詳細があります。飯田の研修時代の恩師です。

胸肋挙上術変法(SCE)

男性では胸部正中縦の皮膚切開、女性では乳房下の曲線の横切開を行います。第3または第4肋軟骨から第7肋軟骨の一部を切除し(青色部分)糸で胸骨に再縫合します。胸骨の下端の陥凹が強い部分1-2cmを切除することによって心臓への圧迫を除去し、術後の形態が良好になり、年長者にもこの術式を適応できるようになりました。

胸肋挙上術変法

5歳男児 胸部CT

5歳男児胸部CT

  • 漏斗胸の胸郭

    (左)漏斗胸の胸郭:赤色部分は肋軟骨です。
    (右)胸肋挙上術後:肋軟骨(赤色部分)は短くなっています。

  • 漏斗胸の胸郭側面

    (左)漏斗胸の胸郭側面:肋骨は前方に行くほど急な角度で下方に向かっています。肋軟骨と胸骨は脊柱に向かって陥凹しています。
    (右)胸肋挙上術後側面:肋骨の走行の角度は若干緩やかになっています。そのために胸郭の前後径が大きくなりいわゆる胸板が厚くなります。胸骨下部の陥凹は改善しています。

我々の術式の特徴

胸部CT

短い単一の創から施行可能で、金属棒などの異物を使用せず、切除短縮し引き寄せて再縫合された肋骨・肋軟骨が元に戻ろうとする弾力が胸骨を両側から引きます()。その合力()が陥凹を上昇させ胸部は適度に固定されます。動かないように固定するのではなく、肋骨が両側から引く力が胸の中央を引き上げるという力学的な原理によって変形を矯正するユニークな方法です。胸骨前後に金属やセラミック、自己骨などを置いて胸を固定することはせずに元の通りの本数、順番で肋軟骨と胸骨を糸を使って再縫合します。胸郭は呼吸のために24時間動きます。胸腔内を広く保ち、呼吸による胸郭の動きを妨げないように切断端を縫合します。そのため手術終了直後から自分で呼吸することが可能で、肺炎等の重篤な合併症の危険が回避され、安静も短期間で装具等も必要ありません。術後の入院期間は1週間以内と短期間で済みます。呼吸機能に悪影響を与えません。左右の切除範囲を変えることで非対称な胸郭も良好に矯正可能です。また肋骨弓(肋骨の一番下の腹との境目)の突出もよく矯正されます。さらに矯正した骨性胸郭を剥離した筋層で覆う事によって筋の機能の維持、形態の改善を得るだけでなく、筋肉を介した血流を維持することにより感染の予防、早期治癒が期待できます。皮膚の縫合には細い糸を用いてできる限り痕が残らないように工夫しています。手術の方法は必要に応じて改良を加えています。胸骨の下端を削ったり、胸骨の捻じれを取るために胸骨骨皮質に斜めの割線を入れたりする工夫によって、変形の強い成人に対しても胸肋挙上術ができるようになりました。難点は患者さんにより体型、変形の程度、骨軟骨の硬さに差があり、熟練を要する事です。
胸肋挙上術変法は胸骨上部に割線を要さないこと、肋軟骨をすべて再建する事、異物による固定を要さず本人の胸郭の弾力で矯正することから従来ひろく行われていたRavitch法とは異なる術式です。

手術結果

1993年から2017年12月までに、3から56歳、平均15.5歳の434人の患者さんに手術を行いました。心臓手術を同時に行った方以外では輸血を要した患者さんはなく、術後の人工呼吸を要した方もありませんでした。つまり患者さんは手術室で目が覚めて自分で息をしながら一般病棟に帰ってきます。出血、固定の不良、再変形、肺合併症等理由の如何を問わず再手術や長期入院、長期の運動制限を要した方はいませんでした。

胸肋挙上術

6歳男児

6歳男児

術後(創長4.0cm)
高度な陥凹が改善し創は目立ちません。
胸部レントゲン写真では心臓の影(中央の白色部分)が著明に小さくなりました。

16歳男性

16歳男性

中央の陥凹が改善し、肋骨弓(左右の胸と腹の境目)の突出が消失しています。

19歳男性

19歳男性

成人の体型の方でも胸郭の左右差、胸骨の傾きが著明に改善しました。

成人女性

成人女性

前胸部の陥凹が改善し、圧迫され平坦になっていた心陰影は手術後に球形に回復しています。また胸郭の左右差が改善し、胸郭の厚みも回復しています。

成人女性

成人女性

胸郭、乳房の左右差が手術によって著明に改善し、胸郭の前後径も増加しています。

側湾・左右差の改善

側湾・左右差の改善

術後は胸郭の厚みの左右差が消失しています。

胸部レントゲン写真

胸部レントゲン写真では心陰影が小さくなり、側湾症が改善しています。

術後の形態は良好で、入院期間や形態に大きな差はなく、肺炎や骨軟骨の感染、大量出血等の重篤な合併症は認めず、いわゆる失敗例はありませんでした。痛みは他の術式に比して少なく、小児では硬膜外麻酔は使用せず、4日目以降に痛み止めを要したお子さんはいませんでした。新幹線や飛行機で来院する方もいますが、最近の350人の手術後の平均入院期間は5.8日で、8日以上の入院を要した方はいませんでした。小児ほど傷が小さく、形態もきれいで、術後の回復も早い傾向があります。男性の前胸部中央の縦の創の長さは6歳以下で3.6±0.5cm、7-14歳では5.2±1.2cm、15歳以上では7.2±1.7cmでした。女性は乳房の下の横向きの下着に隠れて目立たない傷です。特殊なテープを傷に約6か月間貼ることによって、ほとんどの方で創部の肥厚が予防できます。

10人の方は他院での手術で十分な矯正が得られずに、胸肋挙上術で再手術を行いました。
成人で手術前後の呼吸機能を比較すると、術前に明らかな異常な値ではないために、術後の改善傾向はわずかでした。胸肋挙上術は呼吸機能に悪影響は与えません。
胸部CTでは陥凹が改善するだけではなく、胸郭の左右差は目立たなくなり、心臓への圧迫が取れて、つぶれていた心臓の影が丸くなります。また肋骨の走行が変わることによって胸郭の前後径が増加し、いわゆる胸板が厚くなります。肋軟骨の一部を切除しても胸の体積が小さくなることはありません。これらは200人以上のCTを手術前後で比較して明らかになった胸肋挙上術の利点の一つです。
小児では食欲が増加した、かぜをひかなくなった、疲れにくくなった等の改善を見ることがあります。成人では胸痛、呼吸困難などの症状を有した方のほとんどが改善しました。

鳩胸について

胸が突出した鳩胸では漏斗胸のように内臓が圧迫されることはありませんが、着衣で隠せないほど突出している場合には精神的な影響を考えて手術の対象になります。胸肋挙上術変法とほぼ同様の手術方法で肋軟骨を切除短縮することで矯正します。左右の乳房下が陥凹していることも多いのですが、私たちの手術ではこれもよく矯正されます。

  • 鳩胸

    (左)鳩胸:胸骨下部が大きく突出し乳房の下が軽度陥凹しています。
    鳩胸手術後:前胸部の突出は著明に改善しています。乳房の下の陥凹も改善しています。

  • 鳩胸の胸郭

    (左)鳩胸の胸郭:胸骨下部と肋軟骨が大きく突出しています。
    (右)鳩胸の胸郭術後:突出は改善しています。

術後の生活について

手術の翌日から歩行や食事が可能です。小児では3-4日目には痛みが和らぎ元気に動けるようになります。成人では痛みがやや続くことがありますが退院後には鎮痛薬が必要なほどの痛みはほとんどありません。装具などによる固定は必要ありません。1週間以内に退院が可能ですが、軟骨が癒合し元の強度になるには時間を要します。手術から4週間(退院後3週間)程度の自宅安静、さらに2ヶ月間(手術後3ヶ月目まで)の運動制限が必要です。通学、仕事の開始は手術後1ヶ月目ごろ、体育の授業、クラブ活動、重労働などは手術後3か月目から可能です。3ヶ月目以降に運動、行動の制限は全くありません。春夏冬の休み中に手術をするお子さんが多くいます。

長期の結果について

胸肋挙上術変法では肋軟骨への血流が維持されるために残された肋軟骨は成長します。胸郭を長期間固定することによる障害は生じず、金属棒などの異物による合併症はなく、摘出するための再手術は必要ありません。肋軟骨の一部を切除するので再度陥凹することもまれです。

漏斗胸手術の歴史と他の術式について

漏斗胸手術は1911年にMyerによって初めて行われたとされています。その後肋骨や胸骨を切断、切除する方法、体外から胸骨を吊り上げる方法、異物で固定する方法など様々な術式が行われてきました。1940年代にRavitchによって開発された胸骨上部に割線をいれて肋軟骨を切除する方法は世界中で広く行われています。和田は1959年から胸骨翻転術を施行しています。1981年に和田らは小児に対する胸肋挙上術を発表しました。これが当院の手術の原法です。

1998年米国の小児外科医Nussらは金属のペクタスバーにより胸郭を内側から固定する術式を発表しました。この方法の原法では胸の正面に創が必要なく、骨軟骨を切らず、側胸部の肋骨の間から胸骨の下に金属棒を通して、その両端を肋骨の間に挟んで固定します。13-17歳を最適な対象年齢とし、それ以下の小児では再発が高率であること、18歳以上では合併症が増えることをNuss先生は発表しています。骨や軟骨を切らないことや前胸部に創が無いことが低侵襲であると発表されましたが、私たちは呼吸や体動の度に動く胸を金属で固定する事による影響は少なくないと考えています。異物がずれてしまったりする合併症が10%程度と高率に報告されています。金属留置中は激しい運動は制限されます。肋骨の間に異物を挟むために強い痛みが長く続きます。従来のラビッチ法に比べて傷が小さく比較的容易に施行できることから本邦でも普及していますが、我々は合併症や痛みが少なく、すべての患者さんがより早く、完全に元の生活に復帰することこそが低侵襲であると考えています。そのためNuss法での手術は行いません。また、Nuss法を含めてどの術式でも手術の熟練度が合併症の頻度や術後の形態に影響することが報告されています。

術後合併症の頻度

胸肋挙上術変法 434件の手術の合併症

再手術0
輸血0
2週間以上の鎮痛剤使用1
皮膚感染1
骨軟骨の感染0
気胸(処置を要する)2
胸水(処置を要する)0
胸郭の固定不良0

Nuss法の合併症
Nuss D et al. 1463件の手術の結果 Ann Cardiothorac Surg 2016; 5: 422-433 急性期合併症(%)

気胸3.8
薬への反応2.9
縫合部の感染1.9
処置を要した気胸0.9
心膜炎0.6
血胸0.3
一時的麻痺0.1
心嚢炎0.4-2.4
再入院を要する疼痛2.9-3.8
血胸0.9-1.0
一過性Horner症候群71.6
合併症に対する再手術4.1-11(%)

慢性期合併症(%)

修復を要した異物の移動3.7
過度な修正3.1
金属アレルギー1.5
創部感染1.5
再発0.9

Pilegaard HK 1713件の手術の結果 Ann Cardiothorac Surg 2016; 5:45-455

バーの回転1.2
バーの移動0.8
深部の感染0.9
痛みによる固定器除去1.4
胸骨骨折0.1
胸骨切開を要する合併症0.1
バーの早期除去0.4
肺炎0.6
気胸1.1
皮下浸出液貯留0.4
胸水0.3
手術を要する出血0.1
バー断端の胸腔内への脱落0.2(%)

成人の手術について

成人では、体の大きさに応じて傷が大きくなること、硬い骨や軟骨を操作するため術後の形態がやや劣ることなどから小児期の手術が望ましいと考えます。しかし成人の漏斗胸患者さんの半数以上が症状を有するため放置はできません。当院の方法を用いれば思春期以降の方、成人にも手術が可能です。当院で手術を受けた方の平均年齢は約15歳です。つまり約半数は15歳以上の成人の体型の方でした。我々は手術に改良を加えて、成人の高度に左右非対称な陥凹に対しても十分な矯正が得られるようになってきました。成人女性で右側の胸壁の陥凹によって乳房に左右差がある方に対しては、乳房下の目立たない切開によって左右差が改善します。しかし、30歳を過ぎたころから軟骨の石灰化が進んでもろくなり手術は難しくなります。

費用について

漏斗胸の診察、手術は健康保険が適応され自己負担額は高額医療の限度額以内です。18歳未満で心臓や肺が陥凹によって圧迫されて機能障害が生じている方は都道府県に自立支援医療の申請をすると、費用の原則として90%が公費でまかなわれます。また小児の入院費は自治体による補助制度があります。住居地の保健所などにご相談ください。

よくある質問はこちら
PAGE TOP

© Shonan Kamakura General Hospital.

職員の方へ